「金の国 水の国」 岩本ナオ

やっぱり、岩本ナオは最高だ!

待ってましたの新刊がほんとうにすばらしくて、日本に生まれてよかった!と漫画の神に五体投地するしかない。

 

稀代の商業国家でありながら水不足にあえぐA国と、水も緑も豊かだが度重なる戦ですっかり国力が衰えてしまったB国。

隣国同士、何かにつけていがみあってきた両国が、和平のために婚姻を結ぶことになる。

A国は国でいちばん美しい娘をB国へ嫁にやり、B国は国でいちばん賢い男をA国へ婿へやる。

しかし、国王様たちがえらんだのは、100人ほどいるお姫様のなかでもいちばん目立たない食いしん坊の末娘・サーラと、商魂たくましい町の学者の倅・ナランバヤルだった。

 

ヒーローでもヒロインでもないふたりだが、彼らのちいさな恋はを大きく揺り動かすことになる。

サーラもナランバヤルも「取るに足りない人間」だからこそ、分相応の幸せを知っている。

多くを望みすぎず、身近にあるものを大切にし、剣ではなく言葉で未来を切り開くだけの勇気と機転を携えている。

 

ふたりが求めたのはたったひとつ、あなたが幸せに暮らす未来だけ。

たとえそこに自分はいなかったとしても、あなたには笑っていてほしいという切実な願い。

 

誰かを愛するということは、こんなにも切なく、貴いことなんだな。

まるで透明な気持ちが胸の奥からこんこんとわき出してくるような、あたたかな恋の物語。

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    今週のジャンプ

    赤葦くんと木兎さんの解説コンビ、静と動で補い合ってじつにイイ!

    他人の試合を観ても、まったくビビらない木兎さんのメンタルはつくづく頼もしいな。

     

    スパイクサーブとジャンプフローたーを織り交ぜる、宮侑の二刀流サーブになかなか対応しきれない烏野。

    烏野だって、じゅうぶん相手を分析してきた。

    2種類のサーブのどちらを打つか見分ける方法もコーチから伝授されている。でも、わかっていてもなかなかうまく拾えない。

    西谷ですら、思わず処理ミスするほどキレと伸びのある一本を繰り出してくる。

     

    こうして見てると、試合におけるサーブ・レシーブの重要性を痛感させられる。

    むしろ、日向はもっとまじめに、サーブ・レシーブ練習すべきだな!笑

     

    宮さんって、及川さん意外と天童みたいなキャラなんだろうか。

    ノってくると止まらないといいますか。

     

    サーブで奪った主導権。

    さあ、ここで畳みかえるぞとばかりに、宮兄弟が繰り出してきたのは影山日向と同じ、変人速攻!?

    わー!でました、以心伝心双子の奇跡!

    幼い頃からずっといっしょでなんでも通じ合ってるふたりだからこそできる奇跡のアレですか!?

     

    正直、この漫画には影山よりすごいセッターっていないんじゃないかという気がしかけていたけど、宮さんやっぱすごい選手だな。

    たったひとつの武器をコピーされた日向がどんな反応をするのか、ちょっと楽しみ。

     

    以下、今週のいーたいほーだい。

     

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      「GIANT KILLING」 37-39 ツジトモ

      代表合宿初日。

      到着早々、強烈な個性を放つ海外組にたじたじのU-22から招集の若手メンバー。

      海を渡り、国を背負ってボールを蹴る選手たちの火を噴く自負心に、試合前から椿は気圧される。

       

      練習でもなかなか持ち味を発揮できないまま、スコットランド戦を迎える椿。出場機会は与えらえないまま、日本は見事勝利を収める。これまでなら、チームが勝てば、たとえ自分が出られなくてもうれしいはずだった。

      しかし、チームの躍動をひたすら見守り、ただベンチを温めるしかなかった椿のなかに、これまで感じたことのない「悔しさ」が湧きあがる。

       

      謙虚さの奥に、椿が秘めていた「闘争心」とも呼べるもの。

      今季、チームの中心として試合に出続けたことが自信となって、ようやくその存在に椿自信が気づいたんですね。

      先を行く選手たちの姿にただ憧れるのでなく、自分もそこに立ちたいと願う焦燥や欲求が、椿自身に殻を突き破らせようとしている。

      「試合に出たい」と思うのは、なにもおこがましいことじゃない。

      窪田くんに背中を押された椿は、枷が外れたように走り出す。

       

      フルメンバーをそろえてきたウルグアイとの親善試合。

      名だたるスター軍団の来日に日本のサッカーファンが色めき立つなか、海外サッカーファンの赤崎も気合じゅうぶんで観戦に。

      赤崎の意識高すぎるくせにミーハーが隠しきれないとこ、ほんと大好きだわ〜。憎めないやつ。

       

      ウルグアイの強くうつくしい若きエース・アルバロの攻撃に、日本のファンからも歓声が沸く。

      敵に向けられたその歓声に日本代表はさらに奮起する。

      この歓声を自分たちへと向けさせるためには、勝利して強い日本を証明するしかない。

       

      1-2で折り返した後半、日本はさらなる前線への推進力として、窪田と椿を投入。

      代表初ゴールは逃したものの、椿は「世界」というピッチのおもしろさを存分に味わって、A代表の舞台を後にする。

      周囲が自分より上手い選手ばかりというのは、そこで萎縮してしまえば窮屈でしかない。しかし、しっかり自分の意志を伝えてコミュニケーションすれば、当然、これまで以上に小気味よいレスポンスが帰ってくる。

      「自分なんか」と現状に甘んじるのではなく、必死に食らいついていけば、すべてが血肉になって帰ってくる。

       

      同い年にして国を背負って戦っているアルバロからの激励は、これ以上ないモチベーションになったはず。

      花森さんにも、ギリギリ名前を憶えてもらえたし!

      ETUに帰ればさっそく先輩たちにイジラレ放題の椿だけど、着実にトップ選手への階段を上っている。

      ほんとうに、たくましくなたなぁ。

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        「GIANT KILLING」 34-36 ツジトモ

        第25節を終えて、リーグ戦は残すところ9試合というなか、5位につけたETU。

        達海からの「タイトルを獲る」という言葉に、チームにもあらたな緊張感と競争が生まれる。

         

        代表監督が見守るなか迎えた、ガンナーズ大阪戦。

        ここで首位大阪を叩けば、まさしく「GIANT KILLING」が始まるという大一番。

        名古屋戦を経て、チームの主軸としての意識が芽生え始めた椿は、仲良しの窪田くんとの対戦も手伝って大いに奮起する。

        ライバル心を剥き出しにした若手ふたりのやり合いに、ほかの選手たちも感化されないわけがない。

        SBガブリエルのアクシデントや、前半に先制し後半追いつかれる苦しい展開にもひるまず、持ち味を出し切ったETU。

        勝ち切ることこそできなかったものの、両チームの総力戦ともいえる好ゲームは引き分けに終わる。

         

        チームの成長を感じさせる悔しい引き分けを胸に、リーグはいったん中断。

        代表ウィークへと突入する。

        健全な成長なためにはチーム内競争が不可欠、と考えるブラン監督が招集した新たなA代表メンバー。そのメンバーにETUから椿が選ばれる。

        周囲が浮き立つなか、U-22のときと同じように、分不相応な僥倖に緊張を隠せない椿。

        それでも、戸惑いを吐露する彼の言葉のなかには、以前にはなかった「チームを勝たせる選手になりたい」という決意がにじんでいる。

         

        お前が今 欲しているもの

        それは代表に行けば 間違いなく見つかるよ

         

        達海からのエールを受け、椿はすべての期待にプレーで応えるべく、A代表合宿へと合流する。

         

        代表選手は個性派揃いのサッカー選手のなかでも、さらに一流の曲者揃いという印象だけど、また強烈なキャラクターが登場。

        超絶ナルシストな代表10番・花森さん。

        なんだかいろいろと面倒くさそうな人だけど、10番ってことは実力はホンモノってことでしょう。

        変人たちに揉まれて、たくましくなってこいよ〜椿!

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          「GIANT KILLING」 31-33 ツジトモ

          「勝つからには上を目指す」。

          達海の捨て身の本気を見せつけられて、自分たちは変わらなければいけない、ということを痛感した選手たち。

          変革への一歩として、彼らが選んだ答えは、キャプテン交代。

           

          キャプテンという重責を担うことで、いち選手としての己に甘えが生じているのではないか。

          選手として一秒でも長くピッチに立つためには、プライドも栄誉も捨てて、がむしゃらになるべきじゃないのか。

          そしてそれこそが、いま最もチームにとって必要なことではないのか。

          そう考えた村越は、ETUの未来を中堅選手のまとめ役である杉江に託す。チームの現状と、達海の心意気、そしてミスターETUから託されたものの重みを感じながら、杉江はキャプテンマークを受け取った。

           

          強くなるって、つねにトライアンドエラーの繰り返しですね。

          どんなにうまくいっていても、そこで満足してしまえばたちまち取り残されていく。こわくても、不安でも、どう転ぶかわからなくても、挑み続けるしか前へ進む方法はない。

          ETUは前へ進むため、ひとつ大きな決断を下しました。

           

          監督交代後の第一戦は、最強ブラジル人トリオを擁する名古屋。

          前半戦でも開幕5連敗のあとに対戦し、勝利した相手。

          強者揃いの布陣にもかかわらず、監督は小者感全開というところに、いやがおうにも「名古屋なんてやっちまえ!」ムードが高まります。笑

           

          再起を誓うETU。もう負けられない名古屋。

          雨のなかで始まった因縁の対決は、一戦目とは異なる様相を呈する。

           

          3人で攻撃を完結させられるブラジル人トリオの強みを生かし、引いて守ってカウンターという「負けないサッカー」をしてくる名古屋。堅い守りにETUも攻めあぐねるなか、こう着する試合の均衡を破ったのはジーノの左脚一閃!

          ETUの選手たちが達海監督に駆け寄る感動的なワンシーン。

          その裏側で、不破監督もまた嫌われ者としての覚悟を固める。

          ここは、不破監督の信念を感じさせる場面ですね。

          個人的には、厳しさばかりが勝負の世界に必要なものとは思いませんが、ちょっとやそっとでは揺るがない絶対的な信念がければ、監督業のような孤独な仕事はまっとうできないんだろうなぁとあらためて思いました。

           

          先制されようとスタイルを崩さない名古屋は、徐々にペースをつかみ始める。

          なかなか前線までボールが回ってこずに退屈していたアタッカー・ペペも、動物じみたキレある動きを発揮。

          「そこから決めるのかよ!!?」と叫びたくなる圧倒的なシュート2本で逆転。ETUは1点ビハインドで前半を折り返す。

          ブラジル人トリオすごすぎる!

          なによりこの3人のプレーって、見ていてほんとうにおもしろい。

          何をしでかすかわからなくて、わくわくさせられます。


          ブラジル人トリオが活躍する陰で、地味に効いていたのが、ファンから愛されるベテラン・川瀬。

          久しぶりに出場機会を得たミスター・名古屋が労を惜しまず、ETUのトップ下・椿の存在を消し続けていたことが、ETUの攻撃から怖さを奪っていた。

          試合中の当たりの強さをバカ正直に謝りに行って、前半終了時、川瀬から「若いうちは周りを気にせず、我が儘にプレーしろよ」と言葉をもらった椿。

           

          前へ進むために選んだ道が正しいものだと証明するためには、結果を出すしかない。

          腹をくくって選手たちは後半戦へと臨む。

           

          雨で体力を削り取られるなか、後半戦はますます大乱戦となる。

          この試合、スタジアムで観ていたらきっと大興奮だっただろうな〜!ま、この大雨のなか観戦に出かけるのは、にわかファンには試練に等しいけど。

           

          連戦で疲れを貯めた両チームの司令塔の変調。

          さらに野性を剥き出しにするペペはハットトリック達成。ペペ相手に身体を張り続けた結果、レッド2枚をくらって黒田は退場してしまう。ETUは10人で2点を追いかける、圧倒的に不利な展開に。

           

          あきらめムードが立ち込めそうになるなか、空気を一変させたのは夏木!

          入って当然のシュートはミスる代わりに、とんでもないゴラッソを決めるお祭り男が、強烈なボレーシュートを相手ゴールにたたき込む!

          夏木のゴールで息を吹き返したETUは一気に攻撃へと転じる。

           

          気負うあまりに忘れかけていた、楽しむことのたいせつさを思い出した椿。キャプテンという建前を捨てて、再び全力で己を試すためプレーしはじめた村越。いままで「犬」扱いしていた椿からの本気の要求に、いつにない本気で応えたジーノ。

          どんなプレーもちゃんと達海は見ている。だから、おそれることはない。

          監督への絶対的な信頼感が、たとえ逆境でもけしてあきらめない勇気を選手たちへ与えていく。

          徹底したチャレンジの末に訪れた、試合終了間際の劇的な逆転ゴール。

           

          この一勝で、チームが生まれ変われるわけではない。

          それでも、ETUはただの一勝以上に重い、ほんとうの「強さ」への一歩を踏み出した。

          試合後、達海はチームにひと言、「タイトル、獲りに行くぞ」と告げる。

           

          覚悟のほどは伝わった。

          あとは、選手のひとりひとりが、それをピッチの上で体現するだけだ。

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            「月に吠えらんねえ」 5 清家雪子

            ホモじゃねえかああぁぁぁ!!!

            ぜえ、はあ。すみません、取り乱しました。

             

            いやまさか、私の腐った脳が見せる幻想かもしれないと何度も頭を打ちふるったけど、夢じゃなかった。いったいどこからが現で幻か、肥大化した朔くんの妄想に呑みこまれて判然としないけれど、巻末最後の4コマ漫画だけは夢じゃない。

            ここに描かれている感情は、ほかならぬ恋心だろう。

            早く終わってほしいのに、ずっと続いていてほしい。はじめて知るややこしい感情。これを恋と呼ばずして、何と呼ぶ。

             

            蛍祭りの夜、白さんは朔くんに「僕らは今 どういう関係なんだろう」と問うた。

            己の性もかたちも見失いかけている朔くんは、混乱のあまりその問いに答えることすらままならず、お得意の妄想を爆発させるのだが、この夜の彼らにはたしかにこれまでにない親愛で結ばれていた。

            しかし、この夜、朔さくんの隣にいたのは、果たしてほんものの白さんだったのかどうか。


            ただ、そうして知った愛すら、朔くんを浮世にとどめる重石になりそうもない事実に、ひたひたと何かが迫ってくるのを感じる。

            一点の染みもゆるさない。その潔癖なまでの詩への信奉こそが、彼を追い詰めてゆく。

             

            生きていくことは、矛盾を抱え込んでいくこと。汚れてゆくこと。そういう自分を許すこと。

            それを許せないなら、もはや生きてはいけない。それでも、詩は彼に肉体の奴隷となることを許さない。

            うつくしく狂いゆく、そのおぞましさに惹きこまれる。

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              「聖の青春」 大崎善生

              大崎善生「聖の青春」を読了。

              十代から二十代にかけての人生でいちばん楽しい時間。その限られた若き日を、がむしゃらに将棋に捧げ尽くした棋士の魂の記録。

              「3月のライオン」がアニメ化するこの機会に、ぜひ読んでおきたいノンフィクションである。

              病弱でありながら、作中誰よりもエネルギッシュに将棋を希求する桐山零の(自称)ライバル・二階堂。読めば誰もが愛さずにはいられないこの少年のモデルとなっているのが、本書の主人公である村山聖だろう。

               

              たまには萌えと関係ない読書をしようと気分転換がてらに手を伸ばしたのだが、やはりノンフィクションはおもしろい。

              他人の人生ほど、奇妙で奥深いものはない。それが自分では到底経験できないような世界で生きた人間のものなら、なおさらだ。どんな天才であれ、大金持ちであれ、人はたったひとつの人生しか経験できない。けれど、本を読んでいる間だけ、私たちはけして知りえることのない「べつの人生」を追体験することができる。

              運命のような出会いと別れ。たったひとつの勝敗でその姿を変えていく、表裏一体の希望と絶望。

              村山聖の人生は、少年漫画の主人公みたいにまばゆく輝いていた。

               

              村山聖は、羽生善治や森内俊之らいまも棋界のトップに君臨する棋士らと同世代の、夭折の天才棋士である。

              5歳でネフローゼという腎臓の難病を患い、孤独な入院生活のなか、ほぼ独学で将棋を覚えた。当時の名人・谷川浩司を倒すことを夢見てプロ棋士を志した村山は、森信雄のもとに弟子入りし、14歳で奨励会入りする。

              興奮したり、少し無理をするだけで、すぐ熱を出し、何日もじっと床に臥せっているしかない村山のことを、森はかいがいしく面倒を見たという。

              「生きているものを切るのはかわいそうだ」という村山を、森は髪をつかんで床屋へ引きずって行き、村山が入院すれば、村山の読みたい少女漫画(なんと、村山棋士は萩尾望都先生のファンだったというのだ!)を書店をはしごして求めた。

              どちらが弟子でどちらが師匠かわからないようなふたりの関係は、師弟というよりほんとうの兄弟か動物の親子のようで、心温められるものがあった。

               

              村山は羽生善治というたったひとりで将棋界を塗り替えてしまうほどの天才とも、互角に渡り合った。

              何度となく「名人」という夢の扉の前に立ちながら、抗えぬ運命にゆく手を阻まれた。勝つほどに対局数は増えていく。極度の緊迫感と疲労に、村山の肉体はボロボロになっていった。

              それでも、将棋しか知らない青年は、生まれた川をめざして一心に泳ぐ魚のように、きらめく鱗をこぼしながら「名人」という到達点だけを追い求める。つねに死と隣り合わせにありながら、村山は命が尽きる瞬間まで、片時も「名人」という夢を手放さなかった。

              ときに滑稽なほどがむしゃらで、ときに胸がいたむほど純粋。

              森先生含め、棋士には奇人・変人、そしてとんでもない天才がわんさかいたが、たぶん将棋にはそういう「純粋すぎて生きづらい人」たちを受け入れるだけの器があるのだろう。

               

              燃えつきる星ような村山聖の生き方を追っていると、つい、将棋を知らなければもっと長生きできたのでは、という思いが心をよぎる。将棋という運命に、彼が自分の命を捧げてしまったようなような気がしてしまう。

              しかし、きっとそうじゃないのだ。

              「名人」という夢があったからこそ、彼は力の限り生きることができた。

              将棋を知って、不自由な身体でも羽ばたけることを知った。

               

              著者の大崎は、こう書いている。

               

              将棋は村山にすべてを与えてくれた。

              村山の心にはいつも将棋盤があり、その上には果てしない青空が広がっていた。

               

              将棋は、誰からも何ものも奪わない。ただ、与えるだけだ。

              奨励会を去った青年たちのその後を綴ったノンフィクション「将棋の子」のなかでも、大崎はそう記している。

               

              憧れ、追い求め、挫折し、絶望に打ちひしがれるうちに、いちばん最初に胸に抱いたはずの純粋な思いはすり減ってゆく。

              勝つも地獄、負けるも地獄。そうメモに残した村山にとって、将棋が果たして、楽しいものであったかどうかは、私などにはわからない。それでも、彼にとって将棋こそが、唯一自分の生を確認する手段だったのであり、彼自身を表現する術だったのではないか。

              朦朧とする意識の中でも、棋譜をそらんじていたという村山の壮絶な最期。

              「最後まであきらめない」なんて綺麗な言葉では到底言い表せない苛烈な生きざまに、深く心揺さぶられた。

               

              「聖の青春」「将棋の子」と読んで、あらためて羽生善治という天才棋士の偉大さを知った気がした。

              19歳にして名人、史上初の7冠、といった数字上の事実だけではない。デビューからいまに至るまでずっと、彼が「最強」でありつづけていることが、どれだけ同世代の、そして後に続く棋士たちを励ましてきたことか。

              奨励会を去り、まるで奈落の底で生きているような男が、羽生と戦って敗れた記憶を自分の「誇り」だと語る。

              同世代の若手に烈しい闘志を燃やした村山にとっても羽生だけは特別で、故郷の広島で療養中、どうしても羽生に会いたいからと病身をおして名人戦の解説会に出かけたという。

               

              真の才能は、ひとを絶望させたりしない。

              みんなに希望を与えるものなんだということを、しみじみとかみしめた。

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                「アオイホノオ」 15 島本和彦

                新人賞を受賞し、ついに漫画家としての一歩を踏み出したホノオ。

                しかし、他人の評価ばかりが気になって、ちっとも本業の漫画に身が入らない。

                 

                賞を受賞したからって、いきなり一人前の漫画家に生まれ変われるわけじゃないもんね〜!相変わらずのホノオに、ちょっとほっとしたような、いつまでも浮かれてんじゃないよ!とどやしつけたいような。笑


                それでも、いまは大先生に振り回されっぱなしの新人担当者・三上さんが、ホノオのよき理解者になってくれるかな?

                これまではホノオのデタラメな情熱&自意識に、ついてこれる人がいなかったもんなぁ。それでもお構いなしに熱量をまき散らしてきたホノオだけど、真っ向から受け止めてくれる人ができれば、一歩先に進めるのでは。

                俺はこんなもんじゃない、もっとデカいことができるはず。

                そう思いながら、妄想みたくうまくやれるはずもなく、自意識の檻のなかで転げまわっている。この自意識こそがモラトリアムであり、「アオイホノオ」そのものなのだろう。もし、ホノオが等身大の自分と向き合って、真のプロとしての一歩を踏み出す日がくるとしたら、それは「アオイホノオ」の終着点かもしれない。

                 

                しかし、15巻のハイライトはなんといっても、当時のサンデーをそのままコピーしたらしき昭和56年度上期新人賞発表ページ!

                当時の新人賞審査員は、赤塚不二夫、楳図かずお、藤子不二雄、松本零士という錚々たるレジェンドたち。島本さん、このレジェンドたちに認められて漫画家になったのか。この先生方に自分の漫画を読んでもらったってだけでも、とんでもないことだよねぇ…。
                しかも、青年部門の受賞者にはなんと、浦沢直樹の名まえが。島本先生と浦沢先生って、部門は違えど、動機デビューだったのか。

                 

                読めば読むほど興味深い。つくづく、おもしろくてためになる漫画である。
                 

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                  「春の呪い」 1 小西明日翔

                  pixivsで人気の著者による初コミックス。
                  誰よりも愛していた妹・春を病いで失った姉の夏美。夏美は死んだ妹の代わりとして、春の婚約者だった冬吾と交際することとなる。春への罪悪感にかられる夏美は、冬吾に春とふたりで訪れた場所に連れて行ってほしいと頼む。


                  長らくネットで描いていた人らしく作画は荒削りに感じるが、どシリアスなストーリーにテンポよく笑いを絡めた語り口が魅力。見た目はスタイル抜群の美女なのに、口を開けばがさつでパワフルな主人公・夏美のキャラクターがこの漫画のキモだな。無口でクールな美男子・冬吾との対比は、漫才コンビのように小気味よい。


                  互いに惹かれあっているはずの夏美と冬吾だが、ふたりが向き合うためには「春」という圧倒的な欠落とも向き合うことになる。

                  冬吾は春と付き合いながら夏美に惹かれていた罪悪感から、夏美は春の心を奪った冬吾を呪った後悔から、まっすぐ相手だけを見つめることを己に許すことができない。いつだって、互いの背後には春の存在があるのだ。


                  条件付きの交際が終わりを迎え、冬吾の自分への想いを知った夏美は、彼を傷つけてきたことを深く悔いる。そして、偶然にもネットで春のものと思われる闘病日記を見つける。

                  1巻はここで「つづく」に。うわーん、いいところで終わるなぁ!

                  何より夏美を縛っている春の最期の言葉の意味が、これで明らかになるのだろうか。そして春は、姉と婚約者のことをどう想っていたのか。不穏なタイトルもあいまって、物語の結末が楽しみだ。

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                    「MAMA」 5-6 売野機子

                    5巻の表紙、天国的にうつくしいな…。

                    母の愛を求め、金のために歌い続けてきたガブリエル。誰にも助けを求めることができず、夜の街をさまよっていたガブリエルを迎えにきたのは、彼の歌声にコンプレックスを抱えていたラザロだった。
                    このお迎えの場面は、つらい展開の多いこの物語のなかで数少ない、完璧な救いのような気がするな…。ラザロがガブリエルに手を差し出したのを見て、心底ほっとした…。

                    ガブリエルがほしがったものは、最後まで手に入らなかったかもしれない。
                    それでも、幼い彼らを翻弄するどんな絶望もよろこびも、べつの誰かにとっては遠いパレードのようなものでしかないのだ。諦観にも似た世界の残酷なうつくしさを知って、ガブリエルはほかでもない自分自身の人生を歩みだす。

                    すべてを失い、たったひとつ手に入れた才能にすら傷つけられつづけた少年は、鳥かごを去り、はじめて自由に歌いだした。たったひとりで歌うようになってはじめて、ガブリエルは歌うよろこびに涙した。
                    ずっと自分を母の一部のように感じていたガブリエルは、母親と離れてようやく、彼自身の価値に気づくことができたんじゃないか。それは悲しいことにも思えるけれど、誰もがいつか、親もまたひとりの人間であることを知って、大人になっていく。
                    永遠の代わりに、ガブリエルは未来を手に入れたんだろう。
                     
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