「YASHA」 1-12 吉田秋生

5年以上積んでいた「YASHA」をやっと読み終えた…いやあ、おもしろかった。
少女漫画と思えないほど、硬派なハードボイルドロマン。でも、この世の者ならざるほどの超美形双子が主人公ってところは、やっぱり少女漫画だからだろうな。敵も味方も、出てくる男たちが揃いも揃ってかっこいい。

遺伝子操作によって人知を超越した知能を持って生まれた静と凛。その恐るべき才能は、「天才」と称えられるより「異形」として畏れられ、大人たちの欲望のためにふたりは対立を余儀なくされていく。

主人公の静がじつに魅惑的なオム・ファタールである。
唯一彼の才能に惑わされない十市こそが、彼を人の世に結わえつける役割を果たしているところは、アッシュと英二の関係とよく似ている。しかし、静には凜という唯一の感応者がいるだけに、どうなるかわからない。
これまで誰とも分かち合うことができなかった世界をはじめて共有することのできる存在。
そして、まるで鏡のように、自分のなかに巣食う闇を映し出す存在。
やがて静は、自らが得られなかった「家族」を知る兄を呪う凜に誘われ、血で血を洗う修羅の道へと踏み込んでいく。

哀しくも潔い物語の結末にかみしめたのは、つくづく人というものは大きな野望や果てなき夢のためなどではなく、「手に入らなかったたったひとつのもの」のため鬼になるのだな、ということ。
なんで自分は選ばれなかったのか。どうして愛されなかったのか。
人類をはるかに凌駕する能力を有しながら、静も凜もふつうの子どもが当たり前に与えられるものを得られなかったがために、生きる意味を見いだせずもがき苦しむ。
そして、彼らを世に生みだした大人たちもまた、巨万の富をもってしても埋められなかった欠落を埋めるため、彼らを奪い合った。叶えられることのなかったささやかな願いの連鎖が、やがて大きな悪夢へとつながっていく。
誰もが愛されたいと願うからこそ、親から子へと繋がれていく「業」を断ち切ることはこんなにも難しい。

どんどん居場所を失っていく凜を見ているのがつらかった…。
尊が最後まで凜のそばにいてくれたのが唯一の救いだ。ふたりの間にあった出来事の重さを思うと軽率に萌えられないものがあるけど、冷酷さも非常さもすべて凜の一部として肯定しつづけたのは、凜を愛していたんだろうなと思う。
それはたぶん、恋というよりずっと自己愛にちかい、自分自身や兄弟を大切に想う感覚だろうけど。まったく方向は異なるけど、静にとっての十市と同じ、凜が生きるための命綱みたいなもんだったんだろうな、と思う。

どれほど強い人間でも、疑うことなく自分をゆだねられる「寄る辺」をはなれては生きられない。
どんなに進化しようと、心だけはきっと弱いままなんだろう。
孤独であるがゆえに寄り添いあう、その幸福を感じるために。
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    「GIANT KILLING」 28-30 ツジトモ

    日本の代表なんて無理。
    お前らは浅草代表だ。


    達海からはなむけの言葉をもらい、U-22代表へと向かった赤崎と椿。
    ザ・意識高い系の赤崎は「調子乗んなってことか!!」と青筋立つが、浮足立っていた椿は、このひと言で落ち着きを取り戻す。
    「日本」の代表なんて想像もつかないけれど、それぞれのクラブを代表する選手たちがあつまって、日本を代表するチームをつくるんだと思えば、自然と自分のやるべきことも見えてくる。

    椿にとってサッカーは、自分に仲間をくれたもの。いつもどおり支えてくれる人たちへの感謝を胸に、チームメイトとのプレーを楽しめばいい。
    緊張から解き放たれ、仲良しの窪田くんや同年代の選手たちとともにボールを蹴るチャンスを目いっぱい楽しみ始めた椿。
    そののびのびしたプレーを買われて見事初出場、初得点を果たす。
    実質期待値0のノープレッシャー状態だったとはいえ、この大舞台で自分らしさを出してプレーを楽しめたことは大きな自信になったはず。高みを目指すライバルたちからも大いに刺激を受け、赤崎と椿はこのかけがえない経験をクラブに持ち帰ることを誓う。

    しかし、ETUはというと、ジャパンカップで鹿島に連敗し、リーグ戦でも浦和に負けて公式戦三連敗。
    常勝鹿島、さすがの強さだな〜!!百戦錬磨のベテラン陣ががっちり中盤を支えながら前線ではルーキーが躍動し、抜け目なく得点を量産するスタイルは、先週末ジャパンカップ優勝を果たしたアントラーズそのもの。
    五味キャプテンのモデルは、まちがいなく小笠原選手でしょうね。
    私自身もアントラーズの試合を見たとき、自らの闘志をチームへ伝播させる小笠原選手のキャプテンシーに衝撃を受けました。

    これまでETUは足りないチーム力を達海が打ち出す奇策で補って、なんとか引き分け以上に持ち込んできた。
    しかし、それでなんとかなるのも中位まで。
    ほんとうの強豪と対等に渡り合うためには、チームの意識そのものを変えていかなくてはならない。
    これまでずっと「勝つ」ことだけに集中していればよかったのが、「勝つ」ことに馴れ始めたことで、あらためて各選手のモチベーションの差が顕在化し、足並みがそろわなくなっている。そのことに気づいている者、気づかないふりをしている者、まったく気づいていない者。
    やっと新旧サポーターが一丸となった声援を背に受けながら、ともに歩み出すことができなかったETU。
    さらなる高みを目指すため、チームが変わるべきときが来ている。そう判断した達海は、ひとつの覚悟を決める。

    達海が叩きつけたのは、「現役復帰」という選手たちへの挑戦状。
    うおおお!!!達海がボール蹴ってるところが見れるなんて!

    輪をかけて突拍子もない達海の挑発に、選手たちには緊張感がはしる。
    しかし、椿やジーノ@難しいことは知らないけど楽しそう組、黒田@売られた喧嘩は買うぜ組らの協力により、達海の現役復帰と現役選手のプライドをかけたミニゲームがスタート。なんとGMも達海チームだよ!

    達海は10年前と変わらない嗅覚と、遊び心あふれるプレーで現役チームを圧倒する。
    その躍動には、外野を決め込んでいた選手たちも思わず引き込まれるほど。
     

    やるんだったらトコトンまで上を目指すよ 俺は
    お前らは違うの?


    見る者の心をつかんで離さないスターの資質。
    それはいまも色褪せないのに、彼にはもう持続させるだけの力がない。どんなにふたたびピッチを駆けまわりたくても、叶えたい夢が山ほどあっても、壊れてしまった脚がそれを許さない。

    誰にも見せたくなかったであろう無様な姿を晒してでも、選手たちにプレーできることのかけがえなさを伝えようとした達海。
    その覚悟のほどを受け止めて、残酷ともいえるアシスト役を買って出たジーノ。
    いやあ、このジーノにはしびれた!ただの優男じゃありませんでしたね。好き放題やってるだけじゃなく、彼もまた、自分の身体ひとつで生きる覚悟を固めてる一流プレーヤーだ。

    ETUの選手たちは無意識に「トコトン」まで上を目指すことを避けていた。自分たちは「弱小チーム」だからと線を引いて、小さなプライドを守ろうとしていた。
    道半ばに夢をもぎとられた達海にとって、それはとても許せることじゃなかっただろう。
    プレーするよろこび、彼らの持つ可能性、選手でいられる時間には限りがあること。それらすべてを、身を以て達海は彼らに伝えようとしたのだ。
     

    やっぱ楽しいよ プレーすんのは
    これに勝る喜びを 俺は未だに知らない


    いつも本音をはぐらかしてばかりいるだけに、このひと言には胸がつまった。
    どんなに監督業に専念しているように見えても、達海の心のどこかにはずっと、選手生命を断たれた悔しさが消えずに残っている。

    達海の文字通り捨て身のメッセージは、選手たちの心を揺り動かす。
    ほかの誰でもない、選手たち自身が変わらなくては、チームがほんとうに変わることはできない。これだけの本気を見せられたんだもの、今度は選手たちが応える番だ。
    「負けて当然」だった意識を、どうやって引き上げていくのか。どうしたら、もっと自分たちを信じられるのか。

    話し合いのすえに選手たちの出した結論は、キャプテン交代。
    あらたなステップを踏み出すべく、ETUの挑戦がはじまる。
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      「応天の門」 1-2 灰原薬

      凶事はすなわち化生の仕業という平安の世にありながら、この世のものならざる存在を認めない理知の天才・菅原道真。あらゆる姫君と浮名を流し、その人たらしの才で窮地を切り抜ける機知の天才・在原業平。
      堅物と遊び人のバディって、つくづくいいものですね!

      若さゆえの潔癖な学者肌の道真を、いい歳して遊び心がすぎる業平があの手この手で担ぎ出し、京の都を脅かす怪しい影の正体を暴いていくクライム・サスペンス。
      「鬼」や「ものの怪」の正体は、もつれた歪んだひとの心。
      その深い闇へと踏み込むなかで、彼らは自らの心に巣食う影とも向き合うことになる。
      歳も生き方もまったく異なる道真と業平。いまはまだせいぜい悪友に毛が生えた程度の間柄だが、今後どんな道のりを経て「友」となっていくのだろうか。

      それにしても、色男として名を馳せた業平の想い人が娘ほどに歳の離れた姫君だったとは。
      源氏が紫の上を妻として迎えたのがたしか紫の上が14歳だかのころだったはずなので、平安時代としてはたいしてめずらしくない話だったのだろうけれど…11歳の少女をさらって心中しようとしたといわれると、「おまわりさん、こいつです!」という気持ちにもなる。この時代の男は、マザコンとロリコンばっかだな!

      女性は政治の道具として、籠の鳥の暮らしを強いられていた時代。家に囚われて生きる貴族たちにとって恋とは、唯一許された自由であり、現代のそれよりずっと甘美で触れがたいものだったのかもしれない。
      高子様の高貴でありながらも烈しい美貌を見ていると、そんなことを思ってしまった。
       
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        「あちらこちらぼくら」 たなと

        モブ系坊主・園木と悪目立ちヤンキー・真嶋の異文化交流グラフィティ。

        人見知り全開な園木の生き様がそのまま自分の思春期と重なって、「ある!ある!ある!!」とぶんぶんうなずきまくりながら読み終えた。こんなクラスのヒエラルキー最上位のヤンキーに声かけられるなんて、底辺には恐怖でしかない。

        駅前で声をかけてきた真嶋をあっさり無視してしまった園木が、「俺さ、中学の頃からどこも見ないで歩く癖ついてて」って言い訳する場面。
        これ、死ぬほどわかる〜!というか、自分以外にもそういう人いたんだってことに感動した。
        ふだん交流のないクラスメイトから話しかけられたりすると、びっくりして「え?は?私ですか?」と処理がおっつかず、園木と同じように結果「シカトした」ってことになってしまうことがよくあったので、わかるよ〜自分が悪いんだけどね〜って胸が痛かった。
        よく知らない人と他愛ない話をするってこと自体が人見知りには苦痛なので、無意識に危機回避しようとしてスルースキルばっか磨いてしまうんだよね…。いまだに治らない悪癖です。
        メールを終わらせるタイミングがわからないとか、どうせ自分の話なんかおもんないやろってとりあえず笑ってやりすごしてしまうとか、ボディタッチにビビりあがるとか、園木くんの一挙一動に共感しまくり。

        自己評価は低いけど、じつは彼なりのこだわりをたくさん持ってる園木。
        洋楽に詳しかったり、DBの悟飯に憧れてひそかに身体を鍛えてたり、深夜ラジオが好きだったり。彼自身は「好きでやっているだけ」としか思っていないけど、高校生でこんなにはっきり「自分の世界」を持っているのは、じゅうぶん誇りえること。
        さりげなく読んでる本が「夜と霧」だったりするんですよ!うちの本棚にもありますが、非常にシリアスで詩的なホロコーストの体験記です。到底、そこらの高校生がたしなんでるとは思えない。
        いったいどんな経緯でこの本を読もうと思ったのか。もしかして、好きなアーティストや作家の好きなものをたどっていってたどり着いたんじゃないだろうか。流行を追いかけるのではなく、自分が好きなもののルーツや歴史を掘り下げていくタイプなんじゃないかなと、この本一冊だけで想像が膨らむ。

        そういう園木の奥深さを、「暗い」と切り捨てるのではなく、まっすぐおもしろがったり尊敬したりしてる真嶋。こいつがまた、じつに気持ちのいい奴なのだ。たまにいるよね、こういう真実うらおもてのない子って。
        ただ、あんまりにおもてうらがなさすぎて、遠慮会釈なしのアプローチが園木にはおそろしい。笑
        園木にあーんしたあとのファークを真嶋がペロッと舐めるシーンは、無意識なだけに衝撃的だった…!ふたりに萌えてしまう女子クラスメイトの気持ちがすごくわかる!

        1冊かけてようやく、俺たちって「友だち」なのか?と気づきはじめた園木くん。
        いつも明るい真嶋にも心の奥に抱えるものがあることを知り、ふたりが心の交流が始まるのはまだこれからか。
        巻数表記はなかったけど、2巻あるよね!?座して待ちます!!
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          「ホテルポパン」1-2 有間しのぶ

          義理の母と折り合えず、伯父の経営する山のホテル、ポパンへやってきたナツ。
          そこでナツを待っていたのは、一風変わった大人たちだった。ある出来事がきっかけでホテルの外へ出られなくなったメイド、どうしたってカタギに見えないシェフ、故郷を追われた中国人バーテンダー、厄介者ばかり拾って来てしまうお人好しのオーナー。
          匂い立つような自然に囲まれてにぎやかなポパンで過ごすうち、ナツは知る。どんな人もその人なりの痛みや苦しみを胸に秘め、きょうという日を生きていること。

          ひとりひとりのキャラクターが背負った物語が、大河ドラマみたいに濃い!まるで知らない人の人生を旅をしているような気持ちになった。
          紙に描かれた絵空事なのに、切られれば痛くて、触れればあたたかい。生きる者の体温と血がたしかに通っている。
          ヤヤさんと山育ちの少女・マリエの話は、昭和の色濃い時代にはふつうにありえた話なんだろうな…と思わされる実感がこもっていたし、少年らしいひたむきさでヤヤさんを慕うナツの幼い恋は、まぶしくも脆さをはらんで危うく、いっぱいに水のはいったグラスを運ぶ心地でページをめくった。

          ポパンでの日々は、きっと彼らにとって疲れ切った身体をいやす褥だったのだろう。ほかに行くあてもなかった者たちが、ひたむきに働いて築き上げた砦。
          だからナツは最後、旅立つことを選んだのだと思う。
          帰るべき場所ができたからこそ、駆け出す先を見つけることができた。誰かがいなきゃ、ひとはひとりになることもできないのだ。ナツがちゃんとひとり立ちできてよかった。

          たえず変わりつづけながら、あの日と変わらぬ姿であなたを待つ。
          素晴らしきホテルポパンに乾杯。
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            「進撃の巨人」 15 諌山創

            巨人の謎がどんどん明らかになっていき、「人類のために」という調査兵団の大義が揺らぎ始める。
            自らが生き残るため、少年少女らはときに人としての尊厳すら失いかねない過酷な任務に直面する。

            読んでいるこちらとしても、まるで襟首掴まれているかのような展開の連続で、いったい何が正しいことなのか、つねに自問自答しながら読んでいる。
            信じるべきはなんなのか、守るべきは誰なのか、めまぐるしく変わる景色のなかでときに自分を見失いかけながら、それでも生きていくためには何かにすがらずにいられない。極限の状況は、否応なくひとりひとりの人間性を暴いていく。

            小狡くしたたかで欲深い。しかし、下衆にもなりきれない程度に育ちのいいジャンの存在は、突き抜けたキャラクターの多いこの物語にこれまでも絶妙の人間味を与えてきたが、ここにきていっそう彼がいてくれてよかったなぁ、と感じる。
            絶対的な大義や夢を持つ、「宿命」を負ったエレンたちに対して、ジャンは選ばれなかった側の人間だ。
            そして、彼自身、その事実を引き受ける覚悟で兵団に所属した。
            自分はきっと、自分じゃない誰かのために死ぬ。そのために戦場に立っている、大いなる勝利へ向けた崇高なる犠牲。いいかえれば捨て駒だ。そして、この漫画を読んでいる多くの人間も彼と同じなのだろう。

            作者の諌山氏は実写映画化に際して「ジャンを主人公に」と提言したらしいが(そして採用されなかったらしいが)、それはおそらくジャンがもっとも人間くさいキャラクターだからじゃないかと思った。
            仲間が、そして自分が死に晒される局面で、彼は刃を敵に向けることができなかった。彼は己の弱さを大いに恥じるが、兵長が疑義を唱えたとおり、何が正しかったかなんてわかりはしない。
            自分が生きるために殺す。いたってシンプルな結論だ。しかし、その結論をなんの躊躇いもなく選びとれるというのなら、それはもはや獣の所業である。ひとじゃない。
            ジャンの弱さは、彼がひとであり続けている証だろう。

            逡巡し、疑い、打ちのめされ、わめきちらしながら、それでもあるべき姿を求めてもがき苦しむ。
            そんな姿に不思議と慰められる気がしている。
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              「西炯子のこんなん出ましたけど、見る?」 西炯子

              かつて小学館からパレット文庫という少女向けライトノベルが出版されていたことをご存知でしょうか。
              たけうちりうとの「こゆるぎ探偵」シリーズや、かわいゆみこ(当時ひらがな表記だった)の「夢色十夜」、金丸マキの不朽のジュブナイルBL「いとしくて残酷なきみ」など、知る人ぞ知る名作を数多く送り出したレーベルである。

              このパレット文庫には一時期、西炯子の四コマ漫画「ひとりで生きるモン!」が印刷されたしおりが挟まれていた。
              ぴりっと毒の効いたユーモアはくせになるおもしろさで、パレット文庫を買うときのひそかな楽しみだったのだ。
              こんなにおもしろいのに、あくまで「おまけ」でしかないのがもったいないなーと口惜しく思っていたのだけど、なんとこれが本にまとめられる日が来るとは!小学館様、どうもありがとう。

              西さんってほんとうに、いろんなところで漫画を描いてきたんだな〜。
              「ひとりで生きるモン!」のほかにも、別冊ヤングサンデー掲載の二次性徴ギャグ「ちるちる!」。いまは亡きflowers増刊・凛花に連載されていたほんのりBL風味の男子大学生の日常四コマ「学生の生涯」。そして、flowers本誌掲載のさまざまなコンセプチュアル・ショート。
              共通するのは、ただひとつ「エロス」を題材とした漫画ということだけ。
              ギャグあり、耽美あり、センシティブあり。読者層や雑誌のコンセプトに応じて、これほど当意即妙に漫画を紡げる作家は西炯子のほかにいないんじゃなかろうか、と思わされます。
              尾田栄一郎氏が壮大なオーケストラを演奏するマエストロなら、西さんは求められれば古今東西どんな音楽も奏でるさすらいのギター弾きって感じ。

              西さんの描くエロスは、どうにも尻がもぞもぞするというか、小学校で男子といっしょに保健体育の授業を受けていたときに感じたいたたまれなさを思い出させる。
              男性向け漫画ではエロはエクスタシーとして描かれ、BLではエロは愛の営みとして描かれる。漫画におけるエロスの表現は往々にして、読者の快楽に奉仕するためのサービスシーンである。

              しかし、西炯子の描くエロスには、ただ気持ちよくて幸せなだけではない「どうしようもなさ」がある。
              どれだけ賢者を装ってもたつものはたつし、清らかなお嬢様だってエッチな下着をつけてるかもしれないし、いざ妄想が現実になれば興奮するより先にビビってしまったりもする。
              どんなに哀しくても腹が減るのと同じで、エロは生理であり欲望だ。
              かっこよく素敵にうまくやろうと思ったところで、そうはいかない。そもそもエロとは、みっともなくていたたまれないもの。
              多くの漫画が華麗に覆い隠していることを、ときに赤裸々にときにシニカルに笑い飛ばしてくれるからこそ、この漫画はたんなる「女性向け」にも「男性向け」にもおさまらない規格外の奔放さを放っているのだろう。
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                「BABY BLUE HEAVEN」 堤谷菜央

                母が亡くなって以来、ふさぎ込んでしまった小説家の父。そんな父が心配で、ずっと面倒を見ながら暮らしてきた晶子。そこにある日突然、家出していた妹の早織が帰ってくる。まだ未成年の早織は妊娠していて、しかも父親は連れて来れないという。
                なんとかして父と妹を繋ぎ合わせようとする晶子だが、自分勝手なふたりに翻弄され、堪忍袋の緒をぶちきってしまう。

                24年組の薫陶を感じさせる作風といい、プレーンな「分かり合えない家族」という題材といい、なつかしさが逆にあたらしいホームドラマ。晶子の行きつけ読書喫茶なんてまさに80年代を彷彿とさせるレトロ感なのだけど、これを二十歳そこそこの作家さんが描いているというがなんともポップ。背景のひとつひとつに、たしかなひとの息遣いを感じる。

                求められるままに「しっかり者のお姉ちゃん」を演じ続け、いつの間にかそれ以外の選択肢を放棄していた晶子。
                「わたしがいなくちゃ」という呪文は、自分を縛り付ける枷であり、誰かに必要とされているという実感を得るための自己暗示でもある。真面目な人ほど、この呪文にかかりやすいんですよね。私なんかもそう。
                思うところがありながらも父に口答えできず、面倒見てあげているつもりで妹をないがしろにしている晶子の姿がそのまま自分と重なって、わかるな〜と思うのと同じくらいもどかしかった。

                家族だからといって、何もかも理解し合えるわけじゃない。むしろ、理解し合えずともいっしょにいられるのが家族。最近読んだBL(タイトル忘れた)に合った一節なのですが、この漫画に描かれていたのは、まさしくそういうことだった気がする。
                いちど家から離れた晶子は、父や妹もあの家のなかで自分と同じように悩みながら生きていたことを知る。
                彼らもまた、父であり妹であるまえに、おなじ人間でしかなかった。家族であれば許せなくても、自分とはべつの人間だと思えば割り切れることもある。

                もう顔も見たくないと思ったはずなのに、生まれてきた姪っ子をいとおしく思う。ひととはかくも矛盾した生き物だ。
                血のつながりで心まではつなげない。かといって、他人になることもできない。
                無理して断ち切ることも、なにもかも分かち合うこともないというような、ほどよいあたたかさのラストシーンは、「たえがたく、かえがたい」(C.三浦しをん)家族という存在を見事に表現していた。
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                  「弱虫ペダル」 41 渡辺航

                  インハイ初日、ラストコーナー。火花を散らす鳴子vs御堂筋!
                  そこに届け屋・黒田の驚異の引きで、箱学新エース・葦木場が猛追をかける。横一線でのゴール前勝負を制したのは、圧倒的リーチの差を誇る葦木場だった。

                  3色ゼッケンを総ナメにし、王座復権の賞賛を欲しいままにする箱学。テントから表彰台を見つめる総北は、それぞれに悔しさをかみしめていた。
                  人前ではひときわ明るく振舞い、ひとり影で歯を食いしばる鳴子の姿にぐっときた。
                  鳴子にとってチビなことはコンプレックスなだけに、悔しかったろうなぁ。今大会もっとも変化を要されているのは、スプリンターからオールラウンダーへの転向という大変貌を遂げようとしている鳴子だろう。逆境に負けない根性と反骨心を持っている鳴子だからこそできることだ。この悔しさもきっと、力に変えられるはず。
                  いつもいがみ合ってばかりの今泉が、いちばん鳴子を信じてるところもよかったな〜。ほんといいライバルだ。

                  先輩たちから陰ながらのエールを受けて、あらためて「挑戦者」としての覚悟を決めた新生・総北。
                  巻ちゃんが応援に来てると知った坂道の、お日さまみたいな笑顔ときたら…!ほんとうに、巻ちゃんがあの日くれた言葉が、ここまでこの小さい背中をおしてきたんだ。会えないことを残念がるんじゃなく、見てきてくれたことをよろこぶところがなんとも坂道らしい。このまっすぐなメンタルが、坂道の強さ。

                  頼もしい先輩たちに引っ張られていた去年とちがって、ほんとうに問題だらけの1日目だった。
                  今年の総北は、個人のレベルは別として、チームとしてまだまだ発展途上なんだろう。悩んで葛藤してぶつかり合って、ひとつになろうとしている段階。
                  それだけに2日目以降、さらに過酷になるレースのなかでどんな成長を遂げていくのか、楽しみでしかない。
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                    「GIANT KILLING」 25-27 ツジトモ

                    強豪・川崎を撃破したETU。
                    スポンサー様への面目もたち、サッカー雑誌の表紙も飾る快進撃に、後藤や有里もひと安心…となるはずが。あらたなトラブルが勃発。サポーター集団「スカルズ」がクラブに殴り込みをかけてきた!

                    達海と笠野さん、クラブの黄金期を支え、再びETU躍進の原動力となっているふたり。
                    チームのレジェンドと呼ばれるべき存在だけど、詳しい事情を知りえない者には、かつてETUを二部降格に陥れた「戦犯」である。そしてスカルズには、達海が海外に移籍し、笠野が職を辞したあとのETUを支えてきた自負がある。彼らの眼には、いちどはチームを捨てた人間がのうのうと帰って来たようにしか映らなかった。
                    怒りのままにクラブに凸したスカルズは、副社長たちと派手にひと悶着を起こしてしまう。

                    スポンサーにつづいてクローズアップされるのは、サポーター。
                    家庭の事情で高校を中退し、やさぐれていたスカルズのコールリーダー・羽田くんが、サッカーの応援に情熱を見出していく過程がとても丁寧に描かれています。
                    サッカーのコア・サポーターといえば、ゴール裏で飛び跳ねたり声をあげたりしながら応援しているアツき漢たち。戦う気概のある奴以外はお断り。そんな空気を感じてしまい、観戦初心者にとっては敷居の高い場所でもありました。熱意ゆえの騒動が報道されることもあり、なんとなく「怖い」イメージをもってしまったり。
                    それでも、アウェイまで遠征して選手たちとともに戦う彼らの存在が、チームにとって大きな力となっていることは間違いない。
                    スカルズもチームを想う気持ちが強すぎて、視野が狭くなってるだけなんだよなぁ。

                    私個人としては、サッカースタジアムのいろんな人が思い思いに「サッカーのある空間」を楽しんでいる空気が好きなので、老若男女、いろんな観戦の仕方がゆるされる空間だといいな、と思っています。
                    10年来ETUのサポーターとしてホーム戦に通っている、古参おじいちゃんサポーターさんが云った言葉。
                     

                    ワシらにとって大事だったのは
                    ETUというクラブが ワシらの側に在り続けてくれたってことだ
                    ブームではなく 日常の一部になっとったんだよ


                    私はこの言葉がとても好きで、この言葉に背中を押してもらって、はじめてサッカーをスタジアムに観に行きました。
                    あたり前にそこにある。そして、そのことに感謝できる。
                    そんな風に何かを愛せることほど、幸せなことはない気がします。


                    騒動の責任を負い、羽田自ら自粛を申し出たことで、コールリーダー不在で迎えたアウェイ・千葉戦。
                    欧州で「プロフェッサー」と謳われた理論派・ミルコビッチ監督の徹底したETU対策に苦められる達海たち。それでも、新旧サポーターが一体となった懐かしい応援がチームを後押しし、見事にETUは勝ち星を挙げる。
                    じいちゃんたちの「あ、そーれ、いーてぃーゆー!」の応援、お祭りみたいでほのぼのするな〜。欧州のど迫力の声だしにも憧れるけど、こういう誰もがいっしょに参加できる応援も日本らしくていい。
                    そして、ミルコビッチ監督の毒舌&ドSっぷりに萌える。己の信念のためなら、たとえ嫌われようとも構わない。そんな孤高の背中に萌えを禁じえません。

                    スカルズとも和解を果たし、あらためて「チーム一丸」となったETU。
                    それでも、急成長を遂げる彼らは、つねに変化の予兆と隣り合わせでもある。U-22代表に選出された赤崎と椿。そして達海には、再び海外からのオファーが舞い込む。

                    達海の代理人・リチャードが語って聞かせた、達海の空白の時間。
                    誰もが彼の才能を愛し、夢を見ていた。ほんとうに達海は男たらしだ。見る者に勝手に夢を与えてしまうのは、ヒーローとしての才能だ。そうして背負い込んでいった重みに耐えきれなくなったのか、彼の脚は壊れてしまった。
                    飄々としている達海だけど、彼にだって眠れぬ夜があったのだ。苦しみ抜いて、いまを選んだ。
                    「あのとき怪我さえなければ…」というリチャードの悔恨の言葉に、「選手生命は運命」と言い切った後藤がかっこいい。やっぱり彼も選手だったんだなぁ。ひとつ悔やんでしまえば、そこに至るまでに積み重ねたすべてを否定することになる。たらればをいっても仕方ない。
                    残酷なようで、達海の選んできたすべてを肯定するための言葉だ。彼の達海への心酔っぷりこそ、大概だ。

                    どんなに最高なパレードも、永遠にはつづかない。
                    だからこそ、いまこの時をを最大限に楽しもう。
                    かけがえのない仲間たちとともにいる。そのことをあらためて実感して、彼らはおそれず前へ進む。
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